書籍レビュー

人はなぜ動かされるのか―『影響力の武器』を読む

基本情報

『影響力の武器[第三版]―なぜ、人は動かされるのか』は、社会心理学者ロバート・B・チャルディーニによる、社会的影響力と説得のメカニズムを扱った一冊です。

人はなぜ、買うつもりのなかった商品を買ってしまうのか。
なぜ、多くの人が選んでいるものを、自分も選びたくなるのか。
なぜ、専門家や権威ある人物の言葉には従いやすくなるのか。

こうした人間の行動の背後にある心理を、多数の研究や実例を通して解き明かしていきます。

項目内容
書名影響力の武器[第三版]―なぜ、人は動かされるのか
著者ロバート・B・チャルディーニ
社会行動研究会
出版社誠信書房
発売日2014年7月10日
ページ数492ページ
定価2,970円(税込)
ジャンル社会心理学
ISBN978-4-414-30422-0

※現在は2023年刊行の『影響力の武器[新版]―人を動かす七つの原理』も発売されています。新版では第三版で扱われた6つの原理に「一体性」が加わり、インターネット社会に関する事例なども拡充されています。

内容要約

この本の中心にあるのは、私たちの意思決定は、思っているほど一から考えて行われているわけではないという事実です。

人間は毎日の生活の中で、膨大な情報と選択にさらされています。そのすべてを詳細に検討していては、とても生活できません。

そこで私たちは、ある種の「近道」を使います。

第三版では、人が他者から影響を受け、承諾へと導かれる代表的な仕組みとして、6つの原理が紹介されています。

返報性
何かをしてもらうと、お返しをしなければならないと感じる。

コミットメントと一貫性
一度決めたり表明したりしたことと、自分の行動を一致させようとする。

社会的証明
自分だけでは判断できないとき、周囲の人々の行動を判断材料にする。

好意
自分が好意を持っている相手からの要求を受け入れやすくなる。

権威
専門家、肩書、制服など、権威を示すものから強い影響を受ける。

希少性
手に入りにくいものや、失われそうなものほど価値が高いと感じる。

重要なのは、これらが単なる「営業テクニック集」として紹介されているわけではないことです。

なぜ、その方法が効いてしまうのか。

その背後にある人間の心理まで掘り下げているところに、この本の面白さがあります。

関連書籍

『影響力の武器』には、関連する書籍が多数出版されています。

代表的なものには、『影響力の武器 実践編[第二版]』『影響力の武器 戦略編』『ポケットブック 影響力の武器』『影響力の武器 コミック版』などがあります。

また、チャルディーニ自身による『PRE-SUASION ―プリ・スエージョン―』では、説得そのものだけではなく、説得を行う前に何へ注意を向けさせるかという問題が扱われています。

現在の本編にあたるのは2023年刊行の『影響力の武器[新版]』です。

第三版から大幅に内容が追加され、従来の6原理に第7の原理「一体性」が加えられています。SNS、Eコマース、ネット広告など、現代のオンライン環境における影響力についても取り上げられています。

レビュー・評価

評価項目評価ひとこと
おすすめ度★★★★★心理学に興味がなくても、一度は読んでおきたい
読みやすさ★★★★☆文章は平易。ただし492ページとかなり厚い
思考貢献度★★★★★人の行動を見るための基礎となる視点が非常に多い

社会心理学の定番として名前を聞く機会の多い一冊ですが、実際に読んでみると「説得の技術書」というより、人間の判断そのものを観察する本という印象が強く残りました。

『影響力の武器』の面白さは、「人を操る方法」を知ることよりも、自分自身がどれほど簡単に影響を受けているのかを知ることにあると思います。

六つの原理を知ったところで、私たちが突然、合理的な人間になれるわけではありません。

希少なものには惹かれます。
大勢が選んでいるものには安心します。
好意を持っている人から勧められれば、判断も変わります。

仕組みを知っていても、影響そのものから完全に逃れることは難しい。

むしろ本書を読み進めるほど、「自分は自分の意思で判断している」という感覚そのものを疑いたくなります。

そして、この本が非常に優れていると思うのは、心理学の研究書としての背景を持ちながら、それを日常生活の具体的な場面まで降ろして説明していることです。

営業、広告、販売、交渉だけの話ではありません。

買い物をする。
誰かを信用する。
人の意見に賛成する。
何かを断る。
誰かと同じ行動を取る。

私たちが毎日のように行っている判断の中に、「影響力の武器」は存在しています。

492ページというかなり厚い本ですが、単なる心理学の知識として読むより、自分の日常に当てはめながら読むことで急に面白くなる本だと思います。

研究部として気になった点

普遍構造研究部として特に興味深いのは、六つの原理そのものよりも、そのさらに奥にある共通構造です。

返報性、社会的証明、権威、希少性。

表面上は、それぞれ違う心理現象です。

しかし、なぜ人間にはこのような「近道」が存在するのでしょうか。

そして、ここからもう一つ疑問が生まれます。

人間は、何をきっかけに「考えること」をやめるのでしょうか。

「みんなが選んでいるから」
「専門家が言っているから」
「残り一つだから」
「以前、自分がそう言ったから」

こうした情報は、本来なら判断材料の一つにすぎません。

ところが一定の条件が揃うと、それが判断そのものに置き換わることがあります。

ここには、個々の心理原理を超えた、もう少し大きな構造があるように思えます。

『影響力の武器』は、その答えをすべて与えてくれる本ではありません。

しかし、人間の行動を観察するための非常に多くの入口を与えてくれます。

だからこそ、この本を読み終えたところを「答え」にするのではなく、

ここから何を疑問に思ったのか。

そこを、普遍構造研究部では拾っていきたいと思います。

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