もどり場

昨日までと明日から。

「あなたには無理だ」

そう言われたことがあります。

不思議な言葉です。

まだ起きていないことについて、
ずいぶん確かな口調で話している。

考えてみれば、
未来について話すとき、
私たちが持っている資料は、
ほとんど過去のものです。

これまで何をしてきたか。

何ができたか。

何に失敗したか。

何度、続かなかったか。

それらを机の上に並べて、

「おそらく、これからもこうだろう」

と考える。

別に、おかしなことではありません。

天気予報も、
景気予測も、
過去の観測から未来を考えます。

人を見るときだけ、
まったく違う方法を使う理由もないでしょう。

だから、

「あなたには無理だ」

という言葉にも、
それなりの根拠があるのかもしれません。

ただ、

予測には一つ、
どうしても困ることがあります。

まだ起きていないことは、
資料に入れられない。

来年出会う人は、
まだいない。

半年後に覚えることは、
まだ知らない。

次の失敗から、
何を持ち帰るのかも、
まだ分からない。

当然、
今日の資料には載っていません。

すると、

「あなたには無理だ」

という言葉は、

未来についての結論というより、

昨日までのあなたについて書かれた
報告書に近いのかもしれません。

人間は、
未来をどこまで過去形で語れるのでしょう。

そして厄介なのは、

その報告書を
一番よく読んでいるのが、

自分自身だということです。

私は昔からこうだから。

これは苦手だから。

前にも駄目だったから。

何度も見てきた自分です。

他人より、ずっと詳しい。

だから、
自分についての予測には、
妙な説得力があります。

けれど、

どれだけ詳しい報告書にも、

明日の欄だけはない。

そこに何が書かれるのかを、
今日の自分はまだ知らない。

もちろん、

空欄だからといって、
良いことが書かれるとは限りません。

明日も失敗するかもしれない。

やっぱり向いていなかったと、
分かることもあるでしょう。

それなら、そのとき、

報告書に一行、
書き足せばいい。

ただ、

空欄を、
結論で埋める必要はない。

「あなたには無理だ」

そうかもしれません。

少なくとも、

昨日までの資料を読む限りでは。

でも、

その資料にはまだ、

明日のあなたが載っていない。

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